大宮で新幹線を待っていた僕は、なぜか衝動的にゆで卵を食べたくなってしまった。さっそく駅のキオスクで購入した1個80円のそれは、突撃実験室でも話題の味付きゆで卵だった。
なぜ卵の殻の内側に味を付ける事ができるのだろう?上記サイトで紹介されている実験によると、卵の殻の表面には多くの微小な孔が開いており、それを酸による表面処理で広げてやることによって、ゆで汁の成分(この場合は食塩水)を卵の内部にまで浸透させることができるらしい。
本当のところはどうなのだろうか?味付きゆで卵の表面は普通のゆで卵とどう違うのだろう??
僕は味付きゆで卵の殻の一部を持ち帰って観察してみる事にした。さらに帰り道、ラーメン屋で普通のゆで卵を注文した。これで比較用の殻もゲット。
それでは調べてみることにする。
今回の観察に用いるのは、なんと最新鋭の電子顕微鏡である。以下の画像は、だいたい90dpi前後の解像度にするとオリジナルの大きさになるように縮小されている
上の写真は表面の構造である。右の写真は左の写真の一部を4倍に拡大している。とても細かい炭酸カルシウムの顆粒が、表面をビッシリ被っているのがわかる。そしてその顆粒の分布は一様ではなく、ところどころに顆粒の存在しないところ(孔)があるのがわかる。
これが殻断面である。写真の上側が卵の内側、下側が卵の表面。内側には、僕らが「なまがわ」とか呼んでいる薄い皮が見える。よくよく見ると、ごく表面に近いところ(つまり下側)に薄い層が発達しているのがお判りいただけるだろうか?
表面に近いところをさらに拡大してみた。表面に近い所に、厚さ10ミクロンぐらいの緻密な層が見える(写真中の表層)。さらに外側に、とっても薄いつぶつぶの層が見える(写真中の顆粒層)。
一方、内側に近い層はやや大きな結晶から構成されている(写真中の内層)
なお、上記3層の名前は正式名称ではありません。僕がてきとーに付けた名前です。
さらに拡大してみると、厚さ1ミクロン程度の顆粒層の様子がよくわかる。これが、表面に見えたつぶつぶの正体なのだ。
これが味付きゆで卵の殻の表面である。先ほどの普通のゆで卵とずいぶん違う。まず、表面を一様に被っていた顆粒が全く見えない。なんだかベタっとした感じである。つぎに、表面の孔が全体に大きくなっている事がわかる。
同じく味付きゆで卵の殻断面も観察してみよう。写真の上側が卵の内側、下側が卵の表面である。左の写真が断面全体、右の写真が表面部分の拡大である。
特に右の拡大写真に注目していただきたい。重要な観察事項として、通常のゆで卵に見られる表層と顆粒層が存在しない事がお判りいただけるだろうか?
この2層は酸処理によって失われてしまったものと考えられる。
以上の観察結果から僕が導いた結論は以下の通りである。
あとは酸による表面処理の程度をいろいろ変えて、味と断面構造をより細かく比べていけば、上の仮説を立証できる。。かも。
今回の試料は教材として面白いので、オープンキャンパスなどの見学会用に保存する予定。
なぜ3層構造をしているのだろうか、考えてみた。
歴史的背景を考えてみると、卵の殻が出来たのは両生類(カエルやサンショウウオの仲間)からハチュウ類(トカゲやヘビの仲間)が枝分かれした時である。両生類は一部の例外を除いて水中に卵を産み、その卵はゼリー状の皮膜で覆われている。一方ハチュウ類や鳥類のように陸上に卵を産む仲間では、その卵は厚い殻を持っている。つまり、卵の殻は乾燥した陸上に卵を産むために進化したのではないかと考えることができる。
もちろん、逆にとっても構わない。つまり、「ハチュウ類は殻付きの卵を獲得することによって陸上への完全な進出が可能となった」とも考えられる(卵が先?ハチュウ類が先?)
だとすると、卵殻の断面で観察された緻密な表層は、水分の蒸散を防ぐためのものではないかと僕には思えるのだ。ならば表面だけとはいわず内側まで全部緻密にすれば良さそうなものだが、全体が緻密だと今度は中で育つ胚の呼吸まで困難になってしまうし、全部同じ材質で厚くしたら脆くて割れやすくなる事も考えられる。卵殻の表層は、乾燥を防ぐことと通気性、さらに丈夫さといった、相反する3つの要求を両立させるために進化したのではないだろうか?
顆粒層の意味は、僕にはよくわからない。表面をスベスベにするため?
皆さんはどう思われますか?
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